好きなものに囲まれて 理想の庭と古民家で暮らす

2022.9.5

長崎市中心部から車で30分。長崎市内にこんな場所があったのかと思うほど、自然豊かな山の景色が広がる地域。長崎市は海のイメージが強いが、山の土地も兼ね備えている町だ。
山間だからと言って不便な場所ではなく、駅もあり市街地までそう遠くはない。利便性も考えてゆったり暮らすにはほど良い場所だ。

そんな地域に築130〜150年は経つ古民家がある。金子葵さんはイギリス人の夫と二年前にこの古民家に移住してきた。もともと昔の建築が好きで、田舎暮らしに憧れていたお二人は、物件を探していく中で人づてに紹介してもらったこの古民家と出会う。

自分たちの好きなようにリノベーションしていい、いつまでも住んでもらっていい、と大家さんに言ってもらえたこと、何よりも魅力的だったのがたくさんの植物が残された広い庭があったことがこの古民家に決めた理由だ。

「庭のお花を活かして皆さんにお花を教えられたら良いと思って。自分で見つけた花を摘んでいけるのが一番楽しいと思う」
金子さんは、なげいれ花という様式の生け花を自身の生活に取り入れながら、SNSで発信したり、教室やワークショップを開いたりしている。SNSでは、「花結-hana musu-」という名前で日々のお花を紹介している。

お茶の教室でお花の入れ方も教わったことをきっかけに、自分なりのなげいれ花を身に付けていった。金子さんの教室は、自宅の周辺を皆で散策して好きな花を摘み、好きな器を選んでいけていくというスタイルだ。季節の草花を自由に自然な姿でいけていくなげいれ花、そこに金子さんのアドバイスが添えられる。

大家さんがお花や植物が好きだったことから、山野草などさまざまな珍しいものも残されていて、周りには花屋には売っていないような自生している植物もたくさんある。
お花やお茶もたしなむ金子さんにはぴったりな場所だ。

家の敷地を囲む年月を感じさせる石垣
取材日には、あじさいやオニユリ、桔梗などが庭を彩っていた
古民家と共に代々受け継がれてきた日本庭園 移住当初は野生化していた庭も二人の手で再生し、綺麗に手入れされている

こだわりの家にしたかったお二人は、一年かけて全て自分たちの手で古民家の改修をした。
畳をフローリングに変えたり、屋根の張り替え、壁の塗り替え、障子の張り替えなど、大がかりな改修から、内装の細かな部分まで二人の手で行った。
全部で7つある部屋の一部、居間からキッチンにかけては、仕切りを開放し広々とした空間になっている。

居間には、二人で骨董市などで集めたものがたくさんある。テーブルとして使っている火鉢台もその一つ。
「前は新しめのお家だったんですが、そこに置いた時とこの家に持ってきた時の生き方、見え方が違うんです。ここに来て初めてものが生きているなと感じます。」
数々の骨董もこの家に来て、空間に馴染みいきいきとしている。

骨董の他にも、見て楽しいものがたくさんある。ご主人が庭の土を使って陶土を作り、薪ストーブや焚火の中に入れて焼いた簡易的な焼き物、手のひらサイズの五輪塔も飾ってある。
床の間には、ノカンゾウの花も飾られていてご主人がいけたものだ。
お二人が好きなものに囲まれて、のびのびと暮らしていることを感じると同時に、ご主人が日本の文化が好きで遊び心のある方だと想像できる。

居間の火鉢台と金子さんお手製の和紙の照明が調和する
もともとあった刀掛けには、合気道をやっているご主人自前の木刀も
キッチンはご主人の身長に合わせて少し高めのものに入れ替え、薪ストーブもご主人が設置
向かいの敷地の畑でこの日収穫したとうもろこしやトマト、きゅうりなど

大村市出身の金子さんは遠方からの移住というわけではないが、自然に囲まれた生活に変わり、より四季を感じるようになった。外で焚火をしたり、七輪でものを焼いて食べたりと今までできなかったことを味わえるようになって、自由で解放された生活に変わったようだ。

今年の6月には、なげいれ花に似合う器のオンラインショップも開設。作家の方との交流も好きで、楽しみながら運営している。
「皆さんに生活の中でお花を取り入れるアドバイスをしていけたらと思っています。」
現在、お休み中のなげいれ花の教室も今秋には再開して、少しずつお花の時間も増やしていけたらと思っている。
お花を通して、新しいことにも挑戦し、ご自身の楽しんでいる生活を周りにお裾分けしているように感じる。

敷地の隅にはストーブ用の薪が冬に向けて準備されている
庭の一角には、水の入った井戸がある その横にあるのは、蒸し料理に使う炭をおこして使うセイロも常設されている
農機具も絵になる裏庭からの風景

庭の手入れや細かな家の補修など、今も手のかかることも多い。それでも、「大変なことも楽しめる生活」と手のかかる作業も楽しみながら暮らしている。
お二人の好きな空間で、好きなものを大切にし、田舎暮らしを満喫。そんな姿は、日々長崎の地に根付き、これからもっと周りの人も元気にし楽しませてくれそうだ。

プロフィール

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金子葵さん
長崎県大村市出身。長崎市現川町の古民家にイギリス人の夫と2020年に移住。一年かけて夫婦で古民家を改修し、広い庭と共に田舎暮らしをしている。「花結-hana musu-」という名前で、自己流で身に付けたなげいれ花をSNSで発信したり、教室を開いたりしている。オンラインショップ「無碍-muge-」を2022年6月に開設。なげいれ花に似合う器を取り扱っている。なげいれ花のワークショップで住みよかプロジェクト担当者と出会い、長崎市のライフスタイル発信に携わる
*なげいれ花とは、草花を自然な姿で自由にいける生け花の様式の一つ

花結-hana musu-

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muge-無碍–onlineshop(hanamusu321.thebase.in/)

ライター/ 古川祥子