住まいと街を整え、長崎の平地に選択肢を

2024.1.9

長崎の市街地を歩いていると、よく見かける看板がある。青色と黄色が印象的なロゴマークに、「福徳不動産」の文字。
長崎市金屋町に本社を構える不動産会社で、「住みよかプロジェクト」の認定事業者だ。長崎県一位である管理戸数からも、その知名度の高さが窺える。社会福祉事業も展開し、「すべての人々が集い、共生できる住まいと街づくり」を掲げている。

長崎市の中心部は、平地に賑わう繁華街を囲むようにして山々が連なっている。戦後、急激な人口増加に対応するためには急いで住宅を用意する必要があった。そのため、道を整えるよりも先に、山の斜面に沿って多くの家が建てられた。その影響は現在も続き、生活範囲が中心部の平地から住まいのある高台までと広範囲に及ぶ人も多い。長崎に坂道の印象が強いのはこのためだ。

「斜面地に住むことが悪いということではない。ただ、平地でもしっかりと良い選択肢を持てるということが大事」
福徳不動産の代表取締役社長である、福島卓さん。社長に就任したのは2011年、28歳のとき。これまで少なかった平地での住環境を整えていく。それが、設立当初から変わらない福徳不動産のビジョンであり、福島社長の基本的な姿勢である。

住みよかプロジェクトの認定物件でもある「ファースト・ステージ滑石」は、2022年に完成したファミリー向けのマンションである。
長崎市北部に広がる滑石地区。そこにある団地は、開発されて50年経っているような、長崎市の中でも古くからある団地だ。住人の高齢化が進み、家を売却される方も多くなった。昔ながらの団地で周辺環境には全く問題はなく、住みやすい地域。それでも、選択肢になるような新しい住宅がないことで、若い住人や子どもの数が年々減っていた。
滑石に思い入れのあるオーナーの想いを受けて建てられたこのマンションは、現在満室。「ここに引っ越したい」と思える物件があればこの地区に住みたいというニーズが、潜在的にあったことが察せられた。住まいの選択肢を増やすことで活性化する地域は、これからどんどん多くなっていくだろう。

福徳不動産はここ数年、賃貸マンションだけではなく、商業店舗の仲介や開発にも力を入れている。人が増えると、飲食店やさまざまな店舗が増える。すると、さらに人口が増える。このような良い循環が生まれているのをすでに感じているという。
「住環境にプラスした追い風になるような、住居以外のことにも取り組んでいきたい」
長崎の住宅環境の向上と同時に、街の発展を加速させる試みは着々と進められている。

そんな福徳不動産を牽引する福島社長の本棚は、多くの本で埋められている。
「いまも本はよく読んでいますけどね、社長就任当時が一番勉強という観点から読んでいました」
経営に関する本を常に手に持ち、信号待ちの時間ですら読書にあてていた。「必死だった」と話す福島社長のデスクの横にある本棚。いつでも本が手に取れるその位置からは、福島社長の勤勉さと熱意が感じ取れる。

福島社長の本棚。たくさんの本が並べられている。

賃貸営業部長を務めるのは、李範炯さん。韓国で生まれ育ち、日本へ移住して今年で8年目。
李さんが福徳不動産に入社したきっかけは、韓国で開催された日本企業の説明会でのこと。満足できなかったソウルでの就職のあと、「新しいことをしてみよう」そう思った李さんが日本企業を検討したのは、交換留学生として関西に滞在していたことがあったから。その経験を活かしたいと考えた。説明会で、社会人としての成長を求める李さんに対して、福島社長は毅然とした表情でこう答えた。
「成長ならしますよ」
社長自身が説明会の対応をしていることに加え、その一言が印象的だったという。

「コルサントホテル長崎駅Ⅱ」は福徳不動産が管理するコンドミニアムである。コンドミニアムとはマンションのように家電や生活のための設備が揃っているホテルのことで、海外ではよく見ることができる形態のホテルだ。

この「コルサントホテル長崎駅Ⅱ」は、Webサイト上でも建物の中まで自由に見学することができる。3D空間撮影技術により、遠方からは写真や間取り図で想像するしかなかった建物内の大きさや雰囲気を、実際に訪れたときのように感じられるようになった。住まいを探しているお客様の「選びやすさ」に貢献できる、内見の新しい選択肢として期待されている。

福徳不動産が管理するコンドミニアム「コルサントホテル長崎駅Ⅱ」の建物内は、本サイトで見ることができる。

福島社長がはじめた取り組みのひとつが、海外からの人材登用だ。現在、福徳不動産では、日本を含めて6か国ぐらいの国籍の方が勤務している。優秀な人材、考え方に共感できる人材であれば、それまでの国や環境など関係なく採用する。
「日本人じゃなきゃとかってこだわりがないからですね」
広い選択肢を大切にする、福島社長の考え方が表れているように感じた。

外国人スタッフの中では、韓国出身の方が一番多い。韓国に最も近い「国境の島・対馬」があり、韓国からの観光客も多い長崎県にとって、馴染みの深い国だ。

韓国人の視点を保ちつつ、日本の文化に合わせて判断基準を変えてきたという李さん。暗黙のルールも多いビジネスの場面では、時には外国人であることをあえて全面に出し、教えてもらえる環境を自ら作ることもあった。
「韓国人としての気質をすべて捨ててしまうと、私が採用された理由がなくなると思っている」
日本社会の中で韓国人としての自分を活かす方法に悩むことも多かった。大変だったが、そういう時間が楽しさのひとつにもなったのだという。

海外での企業説明会には、福島社長ご本人が参加し、お話をされている。いまでこそ海外人材を登用する企業は増えているが、8〜9年前は海外で開催される日本企業の採用イベントに並ぶ会社は大手企業ばかり。その状況で勝つために、社長が自ら説明や面接を行い差別化を図ることが必要だった。また、直接話をすることで、日本で働こうとする外国人の不安や恐怖が薄まり、安心につながればという想いもあった。社員が壁を感じないようにと意識して接しているという福島社長の「らしさ」が、ここでも感じられるように思う。

「社長という立場はあるかもしれないが、付き合い方はみんな全く変わらないですね」
ふだんから社員の方と一緒に遊びに行ったり、福島社長のご自宅でお食事会をしたりするのだとか。オーダースーツを作りに行くツアーの場面を拝見したが、楽しそうで仲の良い様子がとても印象に残っている。

李さんの一日は、常にコミュニケーションであるという。スタッフが前向きに働けるようにそれぞれの支店の店長とこまめに連絡をとったり、新しい試みの様子を確認し、何かあれば役員と相談したり。以前はお客様の対応を主に行い、希望に沿う物件の紹介や、それぞれの暮らしに寄り添ったプロ目線のアドバイスを行っていた。いまもお客様への想いは変わらず、クオリティの高いサービスを提供できるよう整備に取り組んでいる最中だ。
「プライベートでいうと、ちょっと分譲マンションを買ってみたいなと思う」
いろいろな住環境を経験してみないと不動産業はできないからと話す李さんは、長崎に永住する予定でいる。

長崎駅周辺ではいま整備が進められ、大きく生まれ変わろうとしている。

2016年に李さんがはじめて長崎に来たときに比べ、街並みは大きく変わった。
「それに貢献しているところがあると思うと、見ていて楽しい」
これからもその変化を感じられることが、すごく楽しみのようだ。長崎の街というより福島社長に惹かれ来日した李さんだが、「長崎で良かった」と話す姿は活き活きと輝いているように見えた。異国の地から移住してきた李さんにそう思わせる魅力が、ここにはあるのだ。

容積率や建ぺい率が一部軽減され、長崎はこれからもっと住環境を作りやすくなっていく。中心地や平坦地に住まいと住みやすい環境をより良く提供していくことで、移住するハードルを少しでも下げていきたい。それが人口減少を留めるひとつの要因になっていくのではないか。
「若い人が県外に出るのは、良いことだと思っていて。でも、長崎に帰ろうと思ったときに、それが難しいとなると一番問題」
賃貸マンションだけでなく、戸建ても増やしていきたいという福島社長。その地域の特徴を見て、さらに選択肢の幅を広げていく。

「長崎は坂道の街」その印象はこれからもずっとあるのかもしれない。しかし、平地に住むという選択肢も必ず用意されている。そんな、歴史と新しい時代が織り込まれた長崎は、今後より一層魅力を増して、多くの人に選ばれていく。

プロフィール

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福島 卓 社長
株式会社福徳不動産 代表取締役社長。2011年、28歳のときに就任。長崎市出身。
2016年には福徳グループをホールディングス化し再編。IT企業の立ち上げや海外からの人材採用など新しい試みを続けている。

李 範炯 さん
株式会社福徳不動産 賃貸営業部長。2016年入社。韓国ソウル出身。
長崎市内にある支店の賃貸部門の統括・管理や、県外の支店との連携、お客様の対応などを任されている。

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ライター/ 中村翔子