種を蒔いて、新しい風を

2023.3.22

長崎市浜口町にアトリエを構える「nina mariage」
格子窓からもれるオレンジ色の光はなんとも温かく、道ゆく人もおもわず覗きたくなる佇まいである。ニーナマリアージュではウェディングプロデュースやフォトプロデュースをおこない、募集を開始すると半年先のウェディングプロデュース予約がすぐに埋まってしまうほど人気である。

開放的で温かな雰囲気の室内
窓越しから見える魅力的なアクセサリーや小物たち

ニーナマリアージュの代表を務める今坂美晴さんは、ウェディングプランナーとしてこれまでに何組もの結婚式を見届けてきた。アウトドアやフリースペース、まっさらな場所を一から結婚式にするのが得意。プロデュースする結婚式は、形式にとらわれたものではなく、もっと自由でふたりのパーソナリティを大切にしたもの。これまでビーチや海の家、フェリーターミナル、古民家、製陶所、廃校、洋館のお庭などあらゆる場所を舞台にしてきた。

結婚式は舞台芸術であると考える。観客がいて、ステージがあって、その場で観てもらう「舞台」なのだ。舞台にも基本的な脚本はあるけれど、その時のお客様のテンションでアドリブを入れたりそういったことも出てくる。結婚式も同じで、その日のお客様の個性や熱気などの空気感を感じ取って、ライブ感覚で流れを変えていく事もある。ケーキ入刀はここでやる予定だったけど、やっぱり先にやろう。天気が良いし、お庭でやろう。予定はなかったけど、花嫁の手紙の返事を親御さんに書いていただくなど、その場を一番素晴らしく演出するライブパフォーマンスだと思ってつくりあげている。結婚式の帰り道に、ゲストが二人のことをもっと好きになったと確信できた時が一番やりがいを感じる時である。

ニーナマリアージュを立ち上げたのは2013年。この春で10周年を迎える。今坂さんは大学卒業後、海外ウェディング専門の会社で2年、長崎市内のプチホテルで2年働きプランナーを経験。特にウェディングの仕事に憧れを抱いていたわけではなく、就職活動中に内定をもらいたまたま始めた仕事だった。
「それが良かったのかもしれない、だから続いているんだと思う。」そう話す今坂さんは、世話好きでお節介なところがあり、常にもう少ししてあげられることはないかと先を先を考える性格であるという。2つ目の会社を退職した時には、この仕事を天職だと感じるようになっていた。

初めて仕事で携わったウェディングはグアムでの結婚式。無駄なものがなく「家族でパーティー」といった温かな雰囲気のものだった。プチホテルに勤めていた時は、小さなホテルだったため何でも自分達でやっていた。そこではグラバー園や旧香港上海銀行などの文化財を使って結婚式をした。

2つ目の会社を退職後、またプランナーになるつもりで就職先を探していた。しかしどこもしっくりこず、ホテルで完結するウェディングにどうしても物足りなさを感じていた。長崎の文化財をもっと活用し、海があり自然があるそういった所を上手く使うことができる専門のプランナーがいなかったので役に立てるのではないかと思い、フリーのウェディングプランナーになることを決めたそうだ。

ハンドメイドのものや蚤の市で見つけたものなど、個性豊かなアクセサリーが並ぶ

今年で10年目となるニーナマリアージュであるが、最初はこんなに長く続ける予定はなくあまり深く考えずにやってみようという気持ちで飛び込んだという。
事業とは子どもを育てるみたいな感覚だとよく言うが、初めはよちよち歩きのニーナマリアージュを支えているたいな気持ちでいた。しかしいつの間にか独り立ちして、それに支えてもらっている、お客様やスタッフにここまで連れてきてもらったという感覚を持つようになった。どんなに「プロデュースやります」と言っても、やってほしいという人が居なかったら成り立たない。ここまで続けることができたのは、必要としてくれる人が絶え間なく居たからであると話す。

今坂さんがプロデュースをする上で大切にしていることは、パーソナリティという部分である。ふたりが今までどういう風に生きてきて、どういうターニングポイントがあって、どういう価値観を大事にしているのか。どのような子どもだったのか、どんな時にどんな苦しい思いや楽しい思いをしたのか、どんな人に出会ったのか。

「その結果この結婚式になった」という部分を知りたいと思い、まずはおふたりの人生を一から振り返ってもらっている。問いかけて、時間をかけてお話しをしていく中でどういった結婚式にしていこうか一緒に考えていくという。

冒頭で紹介した、様々な場所での結婚式。海で結婚式をしたい。廃校がいい。そんな要望があっても誰でもその場所で結婚式をおこなうわけではない。どうしてその場所で?どうしてこのような結婚式がしたいのか?問いかけながら一緒に考えていく。全てにイエスを言うのがいいプランナーではなく、ふたりのことを深く理解し、時には愛のあるノーも言いながら、その後の人生がより良くなる結婚式をつくる。

たくさん話をして、「じゃあこういう結婚式にしましょうよ」というものを一緒に考えていく
ニーナマリアージュのドレスには、どれも名前がついている

プロデュースをしていると、「長崎らしさ」という言葉がよく出てくる。今坂さんは長崎を中心に佐賀や福岡、時には関東などでもプロデュースをしているが、長崎以外の地でそう言われることはほどんどないという。出島の中にある鎖国時代に唯一開かれていた場所にあるレストランでの結婚式や、長崎の卓袱料理など、文化を結婚式に出せるところで喜んでもらえることが多い。

長崎には歴史ある文化財が多く点在している。ニーナマリアージュでもよく使わせてもらっているが、もっと活用させてもらえたら良いのになと思う場面がある。「神戸や横浜に行くと、洋館の活用が本当に上手なんですよ」と文化財を上手く活用する都市があることを教えてくれた。結婚式が当たり前におこなわれていて、市民の生活に根付いている。ここで結婚式をやるという選択肢が当たり前にあるのだそうだ。
文化財は存在するだけではなく、そこに暮らしている人たちに愛されることでより価値が生まれる。愛されるための一つの方法として、結婚式やウェディングフォトなどで若い世代が使うことが大事であると今坂さんは考えている。

もしも取り壊しの案が出た時、結婚式をした場所であったり、家族で訪れた思い出の場所であったりすると、すぐに署名活動をすると思う。誰かの人生に触れた方が良いと思うので、上手く活用させてもらえると良いなと思う。これは古いものが好きで、時を経て美しさを増したものに惹かれるという今坂さんの思いであり願いでもある。

ニーナマリアージュと聞いて思い浮かべる方が多いのではないかというヴィンテージドレス。古いものだと100年、新しいものだと50〜60年前のもの。フランスやアメリカが中心で、他にもイタリアなど色んな国のものがある。「ヴィンテージドレスって都会には似合わない。かといって、カントリーにも似合わない。長崎という異国情緒のある街だからこそ似合うものだと思っているので、長崎の花嫁さんに着てほしい」と話す。今坂さん自身で買い付けに行くこともあるそうだ。パリの蚤の市で直接おばあちゃんから「これ私が着たのよ」と、ドレスを譲り受けることもあるという。ヴィンテージドレスの他にも、デザイナーさんに仕立ててもらったドレスやフェアトレードのドレスもある。高い安いといった値段なんかではなく、ドレスそのものの美しさや、誰の手によって作られたのか、これまでどんな方が袖を通してきたのか。物や人に対する今坂さんの愛情がドレスを通して伝わってくる。

デザイナーさんに仕立ててもらったドレスは細かな部分までこだわりが詰まっている

2013年にマンションの一室でスタートしたニーナマリアージュは、2019年に長崎市八幡町に路面店「atelier nina mariage」をオープン。2022年11月には長崎市浜口町へと場所を移した。初めは一人で働いていたいたが、今ではスタッフが加わり一緒に働いている。最近はアニバーサリーフォトを始めるなど、少しずつ変化をしながら今日まで歩んできた。

5周年のとき、お客様を集めてお祝いパーティーをした。これまで担当したお客様と久しぶりに会って、話をして、とても楽しい時間だったそうだ。本当は10周年のイベントも開催をしたいが、お客様の数も相当増えたことやコロナ禍ということもあり、なかなか手が回っていない状況である。今年はまた違った形でニーナマリアージュのお祝いをしたいと考えている。
これまで担当したお客様とは、SNSなどを通して繋がりを保っている。「皆さんのその後、幸せそうにされている姿、お子さんができたとか、そういうものも見ることができるので楽しい。」そう話す今坂さんの表情には、お客様を思う気持ちが溢れていた。アニバーサリーフォトでお子様との写真を撮りに来られるお客様と会えるのもまた楽しいという。

5周年のパーティーでは、友人の音楽家が「nina mariage」という曲を作り演奏してくれた

20代の頃、長崎は田舎だからと常に何かを諦めていた。しかしニーナマリアージュを立ち上げたことで、ウェディングという分野に選択肢を増やす種を蒔けたと思っていると話す。長崎でも、自ら活動を始める若い方たちが増えてきていることを実感している。地方だから、全ての分野において決して最先端ではない。だからこそ困っている人が大勢いる。「もう少しこれがあればいいのに、あれがあればいいのに。」それを解決する方法を形にすれば、それを評価してくれる人がいる確率は、都会よりもずっと上がると思う。青春時代に流行した曲の歌詞に「ないものを嘆くより、作ればいい」とあるが、まさにこれが実現しやすい街であると考えている。

昨年、築70年戦後すぐに建てられた古民家をリノベーションして住み始めた。
完全に新しくした部屋があったり、旦那様の仕事部屋はモルタルの男性らしい部屋だったりと、部屋ごとに変化をつけて楽しんでいる。料理が好きで、オフシーズンには手の込んだ料理に精を出すという今坂さんのキッチンには、好きな作家さんの作るお皿や器が並ぶ。料理の盛り付けにも手を抜かない。休みの日は自宅の庭いじりなどを楽しみ、すっかり家で過ごす時間が増えたそうだ。

古いものや人の手が入ったものに囲まれて暮らす今坂さんの毎日には、私たちの忘れかけている大切な何かが存在しているように思う。便利さや流行によって生み出されたものではなく、生活に根付く人と人との繋がりや温度を感じるようなもの。

同じ熱意を持った人がいたら教えていきたいと話す今坂さん。お店のスタッフじゃなくても、他のフリーでやりたいという人がいても同じ。もっと人の力、若い力を借りてできることを増やしていきたいという。今坂さんがフリーウェディングプランナーとして活動を始めた時のように、「何かしっくりこない」「こういうものをやってみたい!」そんな気持ちを持つ若者は多いのではないだろうか。今坂さんの力と新しい力が合わさって、ウェディングの分野とこの街に新しい風が吹きそうな予感がしている。

プロフィール

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今坂 美晴さん
長崎県大村市出身。大学卒業後、海外ウェディング専門の会社で2年、長崎市内のプチホテルで2年勤め、プランナーを経験。その後、2013年にニーナマリアージュを立ち上げ、フリーのウェディングプランナーへとして活動を始める。アウトドアやフリースペースなど様々な場所を結婚式の会場とし、一から作り上げることを得意とする。結婚式の形式にとらわれず、ふたりの思いの詰まった結婚式を実現する。

nina mariage -ニーナマリアージュ

Instagram(@nina_mariage)

ライター/ 野口あさみ