自分らしくやりたいことを実現させて

2022.10.13

長崎市の中心部の新地町に、2022年3月「square coffee&bake」というカフェがオープンした。オープンしてまだ一年もたっていないが、お客さんが絶えず来店する人気のお店となっている。
「square coffee&bake」を経営するのは、伊藤千晶さん、洋介さんご夫婦。
お店の場所を選ぶ時の条件は、大きな道路沿いではなく、自宅や小学校、保育園から近い、公園が近くにあるということだった。小学生と保育園児の子供がいるお二人は、そのような条件で場所を探し、洋介さんがぴったりな物件を見つけだしてくれた。

その条件に合ったお店は、交通量の多い大きな通りから一歩入った静かな路地にある。大きなマンションの一階部分はガラス張りで店内の様子が分かり入りやすく、明るい空間が通りがかった人たちを惹きつける。近くには、大学や大きな病院、中華街や水辺の森公園もあり、静かな落ち着いた通りである。
自分達の目指す理想のカフェの場所、自分達の生活スタイルにあった場所に運よく巡り合い、念願だったカフェを始める準備がスタートした。

お店のある大きなマンションが建つ通り。マンションの一階部分はテナントスペースになっていて、数十メートルに渡ってさまざまなお店が並ぶ。

奥様の千晶さんはもともとコーヒーが好きで、誘いを受けたことをきっかけにコーヒー店で働くようになった。出産や育児を経験しながら、8年間コーヒー店に勤務していた。いつか自分のお店を持ちたいと思いながら過ごす日々。
そんな頃、ご主人の洋介さんも長年勤めていたアパレルの仕事にだんだんやりがいを感じられなくなっていた。アパレルの仕事について15年。接客が主だった仕事に、管理職も兼務するようになり、自分のやりたいこととずれが生じるようになっていた。自分自身で何かやれるような仕事をやりたいと思うようになっていた。

夫婦どちらもサービス業の仕事。特に洋介さんは日曜日も仕事のことが多く、子供達と休日を一緒に過ごせる時間が少なかった。上の子が小学生になると、もっと家族との時間を増やしたいと強く思うようになっていった。
そんな思いが重なったことで、千晶さんの夢だったカフェを開こうと現実的に考え始め、物件を探し始めた。条件にあった良い物件に巡り合い、色々なことが揃った良いタイミングで、自分達のカフェを開業することにした。

「square coffee&bake」という店名の「square」には、四角という意味の他に広場という意味がある。色々な方に気楽に来てもらえるような場所になったらいいなという思いからつけられた。地元の方はもちろん、SNSを見て来てくれる若い方や観光客、幅広い方が訪れるお店になっている。
ガラス張りで店内の様子が分かって入りやすく、内装はシンプルだが木の温もりを感じる柔らかな印象の心地良い空間だ。

ゆっくり過ごしてほしいと、通路や客席は少し広めにとってある。そのことが自然と子供連れの方が来店しやすいお店になっているようで、子育て世代のお客さんも多い。
伊藤さん家族が家で使用していた絵本も置いてある。親と同伴の子供のドリンクは割引があり、子供でも飲食しやすいようにしている。
子供と行きやすい飲食店は意外と少なく、子育て中の方も気兼ねなくくつろげる。子供連れの方同士が仲良くなることもあり、お店の中で子育ての輪も広がっている。

コーヒーはスペシャルティコーヒーで、今年始めまで勤めていたお店の豆を使用。顔なじみのため、情報交換もスムーズにでき、ちょっとした相談もしやすい。
焼き菓子の材料は、ほとんどが国産のものを使用。子供がいるからこそ、安心して食べれるものを提供したいという思いがある。できるだけシンプルな材料で作ることを心がけている。
人気の四角いスコーン。様々な具材があり、コーヒーとの相性も良くさくっと食べられる。テイクアウトされる方も多く、お土産やプレゼントにも喜ばれる。他にもバスクチーズケーキも人気。

16時になると、閉店までの一時間は基本的にテイクアウトのみとなる。洋介さんが小学校と保育園に通う二人の子供達を迎えに行き、一旦お店に集合する。17時にお店を閉め、片付けをして18時頃にみんなで帰宅する。
「子供達は、お店ができたことを嬉しく思っている。それは、予想できなかったことで、家とは別の自分の場所を作ってあげれたことは子供達にとってすごく良かったと思う。」
お店で子供達は楽しそうに遊びながら、片付けが終わるまでお利口に待っている。親も子供も見える所にいてお互い安心して過ごせる。

まだ手のかかる子供達がいるためお店の経営は大変なことも多い。お店があるからといって、子供のこと、家のことはないがしろにできない。
「お客様に迷惑がかからない、自分も心を許せる範囲で上手く妥協し、無理が来ないように自分ルールを作って心に決めてやっている。」
千晶さんは、もともとは家族の時間を作りたくて始めたことだからと家庭に重心を置き、お店の力を調節してやりくりしている。

「子供といる時間が長くなったので、子供の成長やできるようになったこと、妻から聞いていただけのことを自分でも実際確認できるようになった。」
洋介さんは、毎日子供達と触れ合うことができるようになり、子供達の成長を実感できるようになった。
「妻は思ったことを表現していけるタイプ。家庭内の親の仕事だけでは見れない部分をお店で子供達にも見てもらえる。」
働く姿を子供達に見せられること、千晶さんが自分らしく働けていることも洋介さんは嬉しく思っている。

「今は自分達に会いに、自分達が作ったこの場所が気に入って来てくれる常連の方ができ、お客様に愛してもらえてることが本当に嬉しい」
今までは、お店のスタッフの一人だった千晶さん。以前勤めていたお店にも常連のお客さんはいたが、感じるものがまた違う。自分がつくりあげたお店のファンの方が何よりのやりがいになっている。

やりたいことを自分でつくっていき、仕事の面白さを改めて感じている洋介さんは、
「会社に属していると決定権がなく、物事がなかなかスムーズに進まない。二人だと共有できているので色んな事を進めやすいし、自分たちがやりたいことをすぐ形にできる。」
自分達のペースで、毎日のびのびと働いていることが伝わってくる。

イラストレーターの方とのコラボTシャツ。オリジナル商品はお店で購入できる。

誰かと誰かが繋がるきっかけになる場所でありたい。その思いから不定期でイベントを行っている。シンプルな内装は、イベントをした時に物が映えるということも考えられている。
最近では、知人がやっている古着をリメイクした洋服ブランドの直売会を行った。いらなくなった古着を持ってくるとドリンクが一杯無料になる企画も行い、好評だった。古着が新たにリメイクされ作品になり、違う方のもとへ行く。
「人の繋がりを感じることができてすごく面白いと思った。またそのイベントで繋がった人同士で新たなイベントなども生まれたら楽しいだろうなと思っている。」

お店を通して知り合った人と、イベントをやってくれた人にも還元できるようなイベントをやっていきたいと思っている。洋服屋さんとのイベント予定があったり、子供対象のイベントもできたら良いと考えている。

子育てをしながらお店を持つことは、大変なことが先に浮かび簡単に実行できることではない。お二人も自分達にできるか最初はわからなかった。

「新しいことを始めるのはちょっとしたきっかけ、タイミングでできることが多い。今やっているように私生活の方にしわ寄せがいかない範囲でできることはたくさんある。挑戦してみるということは1つの大きな一歩であり、大切なことだと思った。」
千晶さんは、今できることを精一杯やり、子供の手が離れたらだんだんできることも増えていくからとマイペースに考えてやっている。

「一人だと難しいが夫婦で共有もできるし、多少の勢いも必要。楽しくやるのが一番良い。子供のお友達家族がお店の近くに住んでたり、その方々と接点を持ちながら、巻き込んで楽しいことができるかなとも思った。」
洋介さんは、夫婦で協力すること、周りの子育て世代との交流も大切にし、その中で楽しさを見つけながら進んでいる。

力を抜いてポジティブに考えるお二人。お互い尊重し合い、補い合ってお店を運営している。気さくな雰囲気のお二人に自然とたくさん人が集まっている。

「子どもがいることが足かせになるのはお互い気持ち的によくないと思う。やりたいなと思ったタイミングを逃さないように。」

子育てをしながら、やりたいことをやるのは難しく考えてしまうが、柔軟に考えるとできることはたくさんある。子供がいても自分達らしく仕事ができているお二人のように、いきいきとした子育て世代が増え、長崎がより活気のある町になっていくことを期待する。

プロフィール

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伊藤 千晶さん
長崎県長崎市出身。20代前半は病院でリハビリの専門職として働く。ワーキングホリデーを利用し、オーストラリアへ。帰国後、カリオモンズコーヒーに就職。並行してスターバックスコーヒーにも一年間勤務。一人目の出産を期に、一年飲食から離れる。アティックコーヒーに就職。二人目の出産育児を1年間挟み、アティックコーヒーで7年間勤務。2022年3月、square coffee&bakeを開業。

伊藤 洋介さん
熊本県出身。大学進学で長崎市へ。卒業後、佐賀にあるアパレルの会社に就職。その後長崎市にあるアパレルの会社に誘われ転職。接客を主に、エリアマネージャーなども兼務し、15年間アパレルの会社で勤める。奥様の希望であったカフェ開業に同意、2022年3月square coffee&bakeを開業。

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ライター/ 古川祥子